。なに、心配はないのさ。話はそれだけかい。あ、さうだ。君の手当のことだが、どうも成績が思はしくないから、この暮は、上げるのを見合せよう。歩合《ぶあひ》の方で、しつかり稼ぎ給へ。これからまだどつかへ廻るんだらう。日が短いぜ。
乙竹 (何か云はうとする)
卯一郎 わかつた。もう一年辛抱し給へ。
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乙竹、会釈して去る。
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卯一郎 奥さん、まだ苦しいかい。おれは、もう直つた。津幡医学士の云ふ通りだ。過ぎ去るのを待つなんて、普通の医者にや云へないことだ。現代の医学は、迷信と絶縁しなけれやいかん。自然に直るものを、医者が直したのだと思はせる時代があつた。子供の出世を、親が自慢した時代だ。おい、奥さん、何時《いつ》までも拗《す》ねてるもんぢやない。おれはこの通り、機嫌よく話しかけてるんぢやないか。ほんとに頭痛がするなら、ちよつと活動の看板を見て来てごらん。足の先が冷《つめ》たけれや、相談でおれが温めてやつてもいい。さうやつて黙つてるが、お前が今何を考へてるか、おれにはほゞ見当がついてる。病気ばかりす
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