い話があるんですよ。どうも、近頃は、医者の方も不景気でしてね。患者の数が、どこでも、めつきり減つてゐる。無論同業者の数が殖えたといふこともありますが、それどころの割合ぢやないんです。誰に訊《き》いてみても、これぢや医者は立ち行かんといふ。有名な病院なんかでも、以前ほど経営が楽ぢやないといふ話です。してみると、医者にかゝる人間の数が減つたといふ理窟です。よござんすか。これは至極当り前なことで、不景気だから、成るべくなら医者に払ふ金を倹約しようといふことになる。ところで、それはいゝが、不景気でも、病気に罹《かゝ》らないといふわけはない。医者にかゝるところを、売薬ですますといふ手合が多くなつたんだらう。すると、薬屋がうまい汁を吸つてゐるわけに違ひない。かう思つて、私、実は、調べてみました。豈計らんや、薬屋諸君、みんなこぼしてゐます。近頃は不景気でといふんです。医者にもかゝらず、薬も飲まずでは、恐らく、直る病気も直らずに、死んでしまふ人間が多いに違ひない。儲かるのは葬儀屋だなと思ひました。これも念のため当つてみますと、なかなかどうして、此処にも不景気風が吹いてゐて、なるほど上等の棺桶を註文する
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