代りに、中等、並製が殖えるといふならわかるが、全体の棺桶数がぐつと減《へ》つたといふんです。まさか、手製の棺桶でお葬《ともら》ひもできますまい。どうも変だと思つて、早速、区役所で、最近二三年の死亡率を調べてみました。たしかに、減《へ》つてゐる。不景気と死亡率の関係をいろいろ考へてみると、どうもたゞ一つの理由しかないやうに思ふ。なるほど、景気がいゝと、暴飲暴食その他不摂生な行為から健康を害するやうになるといふのは一つの理窟ですが、不景気のため、粗衣粗食で栄養状態が低下し、過労心痛のため死を早めるといふ事実と比較すればどうでせう。先づ、これは相殺するものとして、真の理由は、その外にある。私の判断に従へば、不景気で死亡率が少くなるのは、無暗に薬を飲まず、殊に、医者にかゝらないからだといふ結論になるんです。どうです、面白い現象でせう。
卯一郎  面白いですな、そいつは……。殊に、お医者さんのあなたから伺ふのは面白い。(起き上る。呼鈴を押す)わたしも、実は、お医者といふものに、予々《かね/″\》、疑ひをもつてゐた。何処まで信用ができるかといふことを考へてゐた。それで、すつかりわかりました。いや、
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