衣食住雑感
岸田國士

 どんな着物を着たいなどゝ思つたことは勿論ないが、こんなものを何時まで着てゐるのかなあと思つたことは度々ある。
 外に出る時は洋服、家の中では和服に限るとは誰も云ふことだが、雨上りのぬかるみを高下駄でこねゆく風情もまた一興である。これは皮肉ではない。ぢつとしてゐる時ズボンの股ほど気になるものはあるまい。
 しかし、和服を着て椅子に腰をかけると、何となく心細い。裾から風がはひるやうな気がする。――風だけならいゝが……。
 新調の洋服など着込んで、賑やかな街を漫歩する気持、これは、想像するだけならいゝ。さて、飾窓に映る姿を見て顔を赤めずにはをられるものはない。変な縞のカウスなんかゞ袖から出すぎてゐなければまだしも……。
 暖かくなつて、初めて外套を着ずに出た日は、裸で飛び出したほどバツが悪い。靴の大きすぎるのが目立つ。
 それはさうと、冬、和服にメリヤスのズボン下を穿いて外に出ると、そのズボン下がどういふ加減か、いやにねぢれて、毛臑にからみつくのはうるさい。
 インバネスは、夕暮れの通りを二人で歩く時だけにしたい。
 晴れた日に黒絹の雨傘を持つて出る用心深さを僕は愛
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