ベエル、味よりも連想がなつかしい。
かういふ家に住みたいなあと思つたことがそれでも二三度はある。
勿論ヴエルサイユ宮殿では廊下だけでも広すぎるし……まあ馬鹿なことを云ふのはよさう。建築は……そんなことはあんまり考へない。たゞ、書斎と寝室はコンフオルタブルなものが欲しい。
若し食堂があるなら、古風な家具で飾りたい。頑丈なシユミネと、塗りのいゝピヤノがあれば、別に客間はいらない。
などゝ、これくらゐの註文さへ、現在では夢想に近いと思はれるが、近頃末弟が麻布辺の古物店から見附けて来たといふ極めてエキゾチツクな廻転椅子のみは、甚だ取つて附けの感はあるが、僕の書斎をやゝ月並と単調から救つてゐる。
冬の部屋に籐椅子の見すぼらしさもさることながら、シングルベツトにデタラメ縞の掛蒲団かけたる、何の趣味やらわからずとわれながら思ふこともある。まして、安物の瀬戸火鉢に、これまた瀬戸びきの金盥をかけ、湯気が立てばそれでシヨフアージユ・サントラル。
郊外の借家もいゝが、隣近所の鶏は五月蠅いものゝ一つである。片足あげてシツと追へば、聞えよがしに啼き喚く面憎さ。
「随分探しました」といふ挨拶も笑つて
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