をすれば、彼は耳を傾けてその話を聴き、二人は、互に身の上話をし、抱負を語り合ひ、識つてゐる誰れ彼れを、善く云ひ悪く云ふのである。
彼が、男の友だちは酒を飲んでいかんと云へば、彼女は、女の友だちは嫉妬深くて嫌ひだと云ふのである。
この男は、必ず、女のやうに科《しな》をつくり、この女は、概ね、男のやうな言葉を使つてゐる。彼等は、必ずしもそれがために意気投合したのではないが、二人の「友情」を保つ上に、この努力が必要なのである。つまり、彼等は、互にできるだけ「性的示威」を慎まねばならぬと心得、一面意識的に「反性的示威」を試みてゐるのである。
かくの如き滑稽な例は、今日、やや増加の徴候がある。そして更に滑稽なことには、この「反性的示威」が、往々意外にも、「性的示威」と同一結果を生むに至るのである。その場合、男女間に於いて、「性的役割」の部分的転換が行はれることはいふまでもなく、モボとモガのあるものは、その典型的な標本であらうと思はれる。
この種の男女は、一般の異性に向つて、極度に、露骨に「性的示威」を行ひながら、一方、特定の異性に対しては、努めて「反性的示威」を試みる異常な風習を流行させ
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