も文句を云はない女、それは、生活を恐れない、いゝ道連れだ。
――ところで、この頃はもう、私は小さな子供みたいにしてゐる。私はマリネツトに云ふ――お前には、母性の本能をすつかり満足させてくれる申し分のない子供が出来たんだよ。その子供は、先づ、なんでも赦して貰ひたがつてるんだ。仕事をしないでもあんまり叱らないでくれつていふんだ。さうして、全然なんにもしないでゐられゝば、いつまでも喜んでるんだ。
マリネツトは私にすべてを与へてくれた。私の方は、彼女にすべてを与へたといへるだらうか! やつぱり、私のエゴイズムはそつくりそのまゝ残つてゐるやうな気がする。
私が彼女に、「率直に云つてくれ」と云ふ時、彼女は私の眼の色で、どこまで本当のことを云つていゝか、といふことをちやんと読みとる。
これは、私が愛してゐると、確信できる唯一の人間だ――それから私自身と。が、まだ私自身の方は……。私はよく、自分で自分に嫌悪の蹙め面をさせることがある。さうだ、彼女を私は非常に愛してゐる。しかも、決して私が見損つてゐるわけではない。
恐らく、彼女は私のことが不安になつて、そして、自分でかう云ひきかせたのだらう
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