。
中には、「顔は花の如く、声は雲雀の如き」美人の姿に化けて、川の岸に蹲り、旅人が橋を探してゐると、
「あたしがおぶつて渡してあげます」
と優しい眼付をして見せる。
「済まないなあ、ねえさん」などゝ、好い気になつて背中に跨らうものなら、川の中へどぶり。
この「ねえさん」名をパオトル・ペン・エル・ロオと呼ぶ。
カルナックからケルゴレックに通ずる国道は、今でも変なことがある。「森の泉」と称する小川の附近には、パオトル・フェタン・ゴエといふ化物がゐて、或は人の姿、或は猫の姿、或は馬の姿、時によると火の玉になつて現はれる。
或る晩、一人の農夫が通りかゝると、へんな男が後からついて来る気配がする。さうかと思ふと、今度は、自分の前に男が歩いてゐる足音がする。こいつは変だと思つてゐると、後の男が近づいて来て、「お前は祈りの文句を知つてゐるか」と尋ねる。「知つてゐる」と答へると、「そんならよし、さもなけれや、お前は恐ろしいものが眼に見える筈だ」と云つた。
その後、また二人の青年が、その辺を通りかゝると、一方の青年が、何ものかに投げ倒された。どこも痛くはなかつた。
ある農夫は、一匹の放れ
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