テ第一に、〔Andre' Gide〕――この人は、シェイクスピア党の親方といつてもいゝ位で、その評論中にシェイクスピアを讃美してゐるばかりでなく、「アントニーとクレオパトラ」や「ロメオとジュリエット」を翻訳し、なほ幾つかの自作脚本――例へば「サユル」或は「ウヂイプ」などの中にも極めて濃厚なシェイクスピアの匂を漂はせてゐます。
 大戦後は、皆さん御承知の如く、フランスで僅々二三年間ではありましたけれども、新劇連動の非常に盛んな時代がありました。それはちやうど私がパリに行つてゐる頃でしたが、その頃のシェイクスピア熱といふものは、殆んど彼れはフランスの古典作家であるかのやうでした。
 以上で、ざつとシェイクスピアがフランスに入つて以来の動静をお話したわけであります。最後に申し添へたいことは、そもそもフランス人は果して能くシェイクスピアを理解し得るか、といふことであります。フランス人と一概に申しても、中にいろいろな性格の人間がありまして、その感受性にも、想像力にも、等差があります。但しフランス人の著しい性癖は不自然を嫌ふといふことと、物を先づ分析してかゝるといふことです。この二つの性癖が、シェイ
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