いふ人が、シェイクスピアの全集を翻訳してゐます。
二十世紀になりますと、――十九世紀におけるシェイクスピア熱は、十九世紀末の自然主義運動でやゝ影を潜めたのですが――再び盛り返して来た。それは例の Antoine が自由劇場運動をひと先づ打切つて、アントワヌ座で従来とはやゝ傾向を異にした戯曲を取りあげましたが、その時「リヤ王」が上演されたのです。今迄のフランスにおける「リヤ王」の上演はカットだらけのものであつたが、この時のはシェイクスピアの原作通りでした。翻訳者はピエール・ロチー。この上演はアントワヌが自分の記録の中に書いてゐますが、大成功。この場数の多い戯曲を、前後の幕に仕切つて、小さなシーンは幕前でやり、幕が上がると奥に別の舞台が出来てゐるといふ仕掛け。間に十五分の幕あひの時間を二つ置いてやつた。エミール・ファゲがその批評の冒頭で、この時、時計を見てゐたら二時間五十七分かゝつたといつてゐます。これは日本の演出法上の参考にもなると思ひます。
この上演は、アントワヌ一派、及び当時の新興演劇、その他演劇の革新運動に携はつてゐた若い連中からは、非常な感激を以つて迎へられたのですが、古い批
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