トリスタン・ベルナアルに就いて
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)笑劇《ファルス》
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彼はポルト・リシュやベルンスタンと同じく猶太の血を享けてゐる。しかも、仏蘭西人らしい特質の最も多くを備へてゐる猶太作家である。
彼は甚だ金持である。スポーツ、わけても競馬と拳闘の熱愛者である。その上、評判の交際家である。その生涯を通じて親友の悉くを失つた一代の偏屈屋ジュウル・ルナアルさへ、彼だけには腹を立てなかつたらしい。
彼は作家として、少しも野心的な仕事は残してゐない、寧ろ、芸術家としてはそれほど特異な存在ではなかつたかも知れぬ。一方に、ジョルジュ・クウルトリイヌを有し、一方にモオリス・ドネエを有する仏蘭西の喜劇壇は、彼の作品に漂ふ一味のユウモアを、大して珍らしがる筈がない。
しかし、巴里人は、彼が何となく好きなのである。多くの批評家も亦、彼を故らに担ぎ上げることこそしないが、彼の作品には絶えず好意を寄せてゐる、云はば、かういふ作家もあつていいといふ作家の一人に違ひない。
此の全集に、モオリス・ドネエや、エミイル・ファアブルやを割愛して、
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