コクトオの『声』その他を聴く
岸田國士

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)幻象《イメエジ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)聴覚的|幻象《イメエジ》
−−

 最近、仏蘭西版の新しい舞台のレコオドを幾枚か聴く機会を与へられた。
 コクトオの「声」はベルト・ボヴィイといふ女優、ミルボオの「事業と事業」を例のフェロオヂイ、ラシイヌの「アンドロマアク」を名悲劇女優バルテといふ風に、僕の耳と心は、再び、十年前の巴里へ舞ひ戻つた次第だが、僕は今ここで、この晩の楽しく、且つ、胸を打たれた数刻の印象を物語らうとするのではない。
 何よりも先に云ひたいことは、僕が嘗て仏蘭西の芝居を観、俳優の演技を通じて、戯曲の立体化――殊に、書かれた白の肉声化といふものにある標準を与へられ、爾来、戯曲を読むたびに、舞台の聴覚的|幻象《イメエジ》がほぼそれに近く浮ぶといふ自信を得たつもりでゐたのであるが、十年を経た今日、読んで間のない戯曲、例へば、コクトオの「声」や、パニョオルの「マリウス」などが、俳優によつて、かくの如く肉声化されようとは全く思ひ及ばなかつたといふこと
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング