に答へる。
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声――君は、今朝《けさ》家を出たんだね。
男――さうです。今朝九時に出ました。
声――何処へ行つた?
男――東京へ行きました。友達の家を二三軒廻つて、銀座で夕食を食つて……。
声――よし、それは後で訊《たづ》ねる。帰りは何時の電車へ乗つた? こつちへ着いた時間でもいゝ。
男――十二時何分かでした、駅へ着いたのが……。それから歩いて帰つて来ました。
声――何時《いつ》も歩くんだね。
男――いゝえ、バスへ乗ることもあります。東京からタクシイを飛ばすこともあります。
声――家へはひる時、何か異常な予感といふやうなものはなかつたか?
男――ありません。
声――電気が消えてゐてもか?
男――遅くなると電燈は消してあることがありますから……。
声――しかし、玄関の電燈は、すぐ点《つ》けてみたんだらう?
男――…………。
声――真暗《まつくら》では帽子を掛けることもできないだらう。
男――帽子は被《かぶ》つたまゝ、部屋へはひりました。それに、月が出てゐて、真暗《まつくら》といふほどでもありませんでした。
声――死体
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