斗《ひきだし》、ハンドバッグの中、その他あちこちを引つかきまはす。最後に手紙の一束を取り出し、それを、順々に読む。がこれはと思ふものは、遂に見当らない)おれがこんなことをするのを、お前は、さぞ不愉快に思ふだらう。しかし、お前の不幸な最期を、他人の忌《いま》はしい推測で汚したくないのだ。ぢや、いゝかい、もうしばらくさうしておいで、今、警察へ電話をかけて来るから。(静かに、部屋を出ようとして、不意に立ち止り)ところで、問題が一つ残つてゐるぞ。警官が来る。よろしい。検死が済む。それもいゝ。さて、犯人の目星をつける段になつて、一応、このおれに嫌疑をかけないだらうか! いやそいつはわからない。少くとも厳しい訊問を受けるにきまつてゐる。(椅子に腰をおろしてしまふ)ところで、その訊問は、どういふ風に行はれるか。万一、つまらん言葉尻を押へられて、動きがつかなくなるやうなことはないだらうか? さういう例もなくはないぞ。それには予《あらかじ》めかう訊かれゝばかう答へるといふ風に、相当準備をしておいた方がよくはないだらうか。ある事実を、うつかり忘れてゐたといふだけでも、それを隠してゐたと誤解されないもんでも
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