起き上らうとする)

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電燈が突然消える。
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女  あら、随分だわ。今頃停電なんて、どうかしてるわ。

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その時、窓の外へ覆面の男が忍び寄り、そつと硝子戸を開けていきなり躍り込み、女の後から抱《だ》きつく。女は悲鳴をあげてその場に倒れる、覆面の男は、素早く窓から飛び出し、姿を消す。
長い間。波の音、時計が十二時を打つ、やがて、玄関の格子が開き、人の上つて来る気配。次いで、部屋の中へづかづかとはひつて来た男、外套と帽子を着たまゝ、片手に買物の包みをさげてゐる。
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男  どうしたんだ。明りをみんな消して……、もう眠《ね》たのかい。(手探りで、電燈のスヰッチをひねつてみるが……)おや駄目ぢやないか。をかしいな。隣りは点《つ》いてたぜ。シイ坊、ちよつと起きろよ。何時《いつ》から消えたんだい。おい、シイ坊……戯談《じやうだん》ぢやないぜ……。(寝台に近づかうとして、そこに倒れてゐる女のからだにつまづく)あツ! 
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