悪友に引張られて、銀座をうろつき廻つてるんだわ。終列車に乗り遅れたつて、知らないから……。四円四円つて馬鹿にならないのよ。はゝゝゝ、なるほど、肩が怒りすぎてるわ……。どうも、ピエロの感じが出ないと思つた……。こらこら、もつと肩をおさげ……。今、眼の縁《ふち》を青く塗つたげるからね。そうら、うまい工合に月が出て来たぢやないの……。明日籾山先生がいらつしやるまでに、ちやんと出来てないといけないわ。あの先生は、何かしら、あたしにお世辞が云ひたくつてしやうがないのよ。そろそろ種《たね》がなくなつて困つてるに違ひないわ。(歌を唱ふ。やがてまた、溜息をつく)あゝ、苦しい。いやんなつちやふなあ、歌も唱へないなんて……。思ひきり大きな声を出して、また……(急に口を噤《つぐ》む)よさう、まだ生きてれば、なんかしらいゝことがあるわ。あと一月《ひとつき》の辛抱だつて、先生もおつしやつた。さうすると、いよいよ東京へも帰れるし、お友達にも会へるし、……さあ、これでよしと、ズボンがちつと細かつたかな……。まあいゝや。(また歌を唱ひはじめる。が、長くは続かない)どれ。お化粧にかゝるとして、動くのは寒いな。(ゆつくり
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