し、鞘を私ふ)あゝいふ風にしなくつても、おれと一緒に死ねと云へば、存外なんでもなく、その気にならなかつただらうか?(半身を起し)さうだ。シイ坊……お前はさういふところのある女だつたな。すつかり忘れてゐた。おれが学校を馘になる間もなく、お前が恐ろしい病気の宣告を受けた。すると、そん時、お前は、何んと云つた。「あんた、死んぢまひたくない?」たしか、さう云ひながら、おれの膝へ泣き崩れた。今と、その当時とは、お前の気持にも変化はあるだらうが、二人を死に誘ふ動機と云へば、あの時よりも、今度の方が重大だとは思はないか。シイ坊! それがわかつてくれゝば、おれは、今、お前に更《あらた》めて云ふぞ。――死んでくれ。おれと一緒に死んでくれ。(寝台に近づき)さあ、もう暗《くら》がりの必要はない。おれの顔をこの通りみせてやる。お前は素直におれの手にかゝつて死んだのだ。おれは、すぐにも、お前の後を追ふべきだが、シイ坊、少し待つてくれ。おれには、まだ一つ仕事が残つてゐる。籾山のうろたへる顔がちよつと見たいのだ。復讐なんて、けちな真似《まね》をするつもりはない。悪戯《いたづら》のしをさめだ。お前は、さうして、静かに
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