わかる。われわれの方では、さうは行かない。
――今、一寸したものを書きかけてるんだ。
――どこへ出すの?
――頼まれたもんだから、仕方なしに書いてるんだ。方面違ひの美術雑誌さ。
――へえ、脚本かい。
――ううん、なんでもいいつて云ふから、なんでもないことをだらだら書いてるんだ。
――随筆だね。随筆の筋なんてものはないかもしれないが、一体どういふことを書くつもりだい。
――書いて見なけれやわからんよ。
……………………………………
結局、話題を他に移すより外はない。実際われわれが机に向つてゐるのを、人は手紙を書いてゐるくらゐにしか思はないらしい。その証拠に、少し待つてくれと云ふと、五分も待てば十分だといふやうな顔をしてゐる。
第三に、絵に描く対象をすぐ、自分のわきに置いておくといふことである。それが美しいモデルなんかだと、一層面白い。この美しいモデルといふものは、どうして画家の専有物なのか。われわれだつて、ああいふものを傍らに侍らしておいて、それから必要なインスピレエシヨンを受けることはちつとも差支ないと思ふが、どうだらう。一人の小説家なり戯曲家なりが、ある女性に
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