興味をもち、その美しさを「描く」ために、彼女を自分の書斎に閉ぢ込め、毎日時間をきめて、その肉体と精神の「姿態」を観察するとしたら、世間はなんと云ふだらう。よしんば、彼女を一度も裸にしないでも、これは「問題」となるに違ひない。
私はある画家のアトリエを久しぶりで訪ねたが、その画家は、新しいモデルを手に入れたばかりのところで、大いに上機嫌だつた。彼はそのモデルを前において、あらゆる讃嘆の言葉を放つた。それは半ば私に聞かせるためであり、半ば彼女に聞かせるためである。或は、さう考へるのが既に私のお目出度いところで、実は、私の耳を通じて、その讃辞の悉くを彼女の耳に伝へてゐたのかもしれない。
私はそこで、この一組の男女が――画家なる男とモデルなる女とが――いかなる関係なればこそ、かくも同時に、幸福であり、得意であり得るかを疑つた。
第四に、自分の描いた絵を、一々、壁にかけて置いて、朝な夕な、煙草を吹かしながらそれを眺め暮せるといふことである。
なるほど、文士の書斎には、自著が行儀よく、本棚の中で背中を並べてゐるかもしれない。しかし、背皮の標題が語り得る範囲は、極めて狭く且つ漠然としてゐる。
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