ィー、それは常に、興奮と凝視と瞑想の、極めて特殊な「心理的詩味」を醸し出し、最近の仏蘭西劇壇を通じて、最も異色ある作家の一人となつてゐること――先づこれだけのことを言つて置きたい。
そして、わたくしは、かういふことをつけ加へる。
彼の今日までの作品は、少くともその手法に於て、決して斬新奇抜と云ふほどのものではない。それどころか、わたくしの観る処では――恐らく誰でも気のつくことであらうが――彼には「幾人かの先生」がある。
これは、前に述べた、現代仏国劇壇の傾向を物語る一つの好適例であるやうに思ふ。
彼は、これらの「先生」から、「貰ふべきもの」と「一時借りたもの」とを、まだ同時にもつてゐるやうな気がする。
「借りたもの」を返してしまふ時機が早晩来なければならない。
それから「貰つたもの」が、「自分で造つたもの」の中に、すつかり形を没してしまふ時機が来なければならない。
此の意味で、今日、彼に「偉大なる天才」の名を冠することは、まだ早いやうに思ふ。
彼の感受性は、しかく鋭敏であるに拘らず、その好奇心に、ややナイーヴなものがあることは否めない。その一つは、科学に対するそれで
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