るものとすれば、それは決して、「過去の演劇」と全く没交渉なものではなく、まして、「過去の演劇」に対する反抗がその主潮となつてゐる戦闘芸術であり得ないことは勿論である。

 然し、兎も角も、「新しいもの」が生れようとしてゐる。
「永遠の花」が、「新しい花瓶」に遷し盛られようとしてゐる――といふ少しアンファチックないひ方が許されないだらうか。

 三十年前、自由劇場の運動から生まれた多くの劇作家中、優れた天分を有つてゐたものも少くはなかつたが、真に生命の長かるべき作品を残した作家が幾人あつたか。それとても、まだ確乎たる文学史上の地位を築き得たとはいひ難い。ポルト・リシュ、ド・キュレルの二人を除いては、そして、ロスタンといふ彗星的作家を別にしては、古来天才と称せられる偉大な作家に比して、あまりにその距りの大なるを感じないわけに行かない。

 今日、所謂仏国の『先駆劇壇《テアトル、ダヴアン、ギヤルド》』を形造る幾多の有為な新進劇作家、その名を数へれば十指を屈してなほ余りがあるに違ひないが、その「力強さ」に於て、その「閃き」に於て一頭地を抜くものは、たしかにポオル・クロオデルとアンリ・ルネ・ルノ
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