レオポール三世の悲劇
岸田國士

 白耳義軍が国王レオポール三世の命によつて遂に武器を投じたといふことは、今度の欧洲戦乱を通じての、恐らく最も悲痛な事件であらう。そのことの生じた裏面には、いろいろな事情が伏在するものと察せられる。われわれは今これらの真相を知ることはできないけれども、何れにしても、大国の間に介在する中立国の立場といふものを考へれば、これに単純な批判も加ふべくもない。
 たゞ、前大戦に於ける白耳義軍の徹底的抗戦は、連合国側にとつて思はざる強力な防壁となつたのみならず、フランスからこれを見れば、健気なる妹の如き親愛の念を禁じることができず、戦後もなにかにつけて、ベルギーをおだてあげ、アナトオル・フランスさへ、時の国王アルベエル一世を讃へる文章を堂々と発表した。
 私はたまたま当時パリに在つてその文章を読んだのであるが、平生のアナトオル・フランスとは思へぬほど、調子の張つた感激的文字を連ねたもので、まさに正義の権化、不世出の英雄としてアルベエル一世を謳歌してあつた。
 ところで、二十年後の今日、同じ白耳義王のレオポール三世は、仏国首相レイノーによつて殆ど罵倒されてゐるのである
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