わかつてたんだわ。二人は、ちつとも変つてないんだわ。たゞ、時が経つたつていふだけなの……。

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ちぎつたカレンダアの一枚一枚を、無意識に丸めながら
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――なにひとつ、いやな思ひ出も残さず、こんなに綺麗に、一人の人間から離れて行けるつてことは、一生に一度だつてないことだわ。それに……それに……どうして、あたしは……あたしは、こんなに泣きたいんだらう……。

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椅子の上に崩れかゝり、声をあげて泣く。やがて、涙を拭きながら
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――あゝ、さつぱりした。これで、もう、いゝの……。何時《いつ》までかうしててもきりがないわ。どら、お神さんがのぞきに来ないうちに帰らう。もう何処かから口がかゝつて来てるかも知れない……

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起ち上つて、もう一度、部屋の中を見廻す。
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――あたしも、なにか、通ひの仕事をみつけて、この部屋を借りよ
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