り]
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――それや、一月《ひとつき》つていふのは、少し長すぎたけど、どうしても手の放されない患者だつたんですもの……。一晩《ひとばん》、代りを頼んでと思つたこともあるわ。でも、やつぱり、気がとがめて……。あゝいふ時、手紙のやりとりが出来ないつていふのは、一番|辛《つら》いのね。会つてゐれば、話が通じないぐらゐ、なんでもないわ。西洋の男つて、みんなあゝかしら……。こつちの思つてることを、すぐ察してくれるし、口を利《き》かずにゐて、ちつともきまりがわるくない……。向うは向うで、独言《ひとりごと》みたいなことを云つてるんだけど、あたしは、そんなこと別に気に留めずに、可笑《をか》しければ、勝手に笑つたり、どうせわからないと思ふから、時々は、「馬鹿」だの「間抜け」だのつて、からかつてやつたわ。さうすると、しまひに、その意味がわかつたらしいの。「ワタシ、バカデス」つて云ひながら―――あゝ、よさう……あんなにいぢめられたことないわ……。
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突然、寝台の上に突つ伏し、涙声で
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