》と一間の押入。

曇つた日の午後四時過ぎ。

廊下で、ばたばたと跫音がする。
障子があく。女が現はれる。
派手なセル。流行遅れのショール。汚《よご》れた足袋。
部屋ぢうをひと通り見廻した後、彼女は呟く。
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――ほんとだ。……やつぱし、ほんとだわ……。

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部屋の中を、あつちこつち歩きまはる。寝台に腰をおろす。
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――何処かへ越したんなら、この道具だつて持つてく筈だわ……。だつて、これみんな、要《い》るものばかりぢやないの、お神さんが、いくらで買ひ取つたか知らないけど、あたしに云へば、掛合ひ方だつてあるわ……。

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急に起ち上り
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――だけど、随分ひどい人ね、あたしに黙つて、帰つちまふなんて……。いくらなんでも、そんなことつてないわ……。

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椅子にもたれかゝり、涙ぐむ。
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