…こんなにぢたばたするんだらう。

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壁に貼りつけた大美人画の前に立ち
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――あの人は、この絵があたしに似てるつて云つたわ……。この絵と、あたしを見較べて、「コレアナタデス」とかなんとか云つたわ。さう見えるのかしら……。それや、日本の男がさう云ふんなら、あたし、いくらなんでも、信用しやしないわ。そんな、見えすいたお世辞、馬鹿馬鹿しくつて、きつと腹が立つわ……。でも、それを、あの人が云ふと、まんざら、お世辞ばかりでもなささうだつて気がするの。自惚《うぬぼ》れなんか起すんぢやないわ。西洋人の眼には、そんな風に見えるのかも知れないし、そこがまた、面白いぢやないの。だからさ、今仮に、おかめの面を持つて来て見せれば、「や、この方があんたに似てる」なんて云ひ出すかも知れないわ。罪がないぢやないの。つまり、さういふところよ。

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鏡の方に向ひ
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――やつぱり、好きになつてたんだわ……。それや、心からつて云へないやう
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