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――ある、ある、いろんなものが……。
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中から、オー・ド・コローニュの空瓶《あきびん》をつまみ出し、それを嗅いでみる。
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――あゝ、この香ひ……。
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今度は、歯ブラシの古いの。
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――こんなになるまで使つたんだわ……。
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それを、ハンド・バッグにしまひ、次に、釦一つ。
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――何の釦だらう……。あゝ、あの外套だわ、きつと……。
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これも、ハンド・バッグへ。そして、次に、折れたペン軸。
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――あの人の手紙でも読めるなら、これもいゝ記念だけど……。
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さう云ひながら、ハンド・バッグへ入れかけて、ふと、それを思ひ止《とま》る。それから、ボロボロのスリッパ、安全剃刀の刃、煙草の銀紙等を、ひとつひとつ、つまみ上げ
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――どれもこれも、捨てていゝやうなものばかりだわ……。
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ボール箱の中へ、再びそれらを入れて、戸棚にしまふ。そして、今度は、汚点《しみ》だらけの藁稈帽を取り出し
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――まあ、この色……。
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それを、ちよつと、頭にのせて、鏡を見る。
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――あの人が帽子を被《かぶ》ると、それや、若くなるのよ。
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急に、椅子にからだを投げかけ、肘で顔を蔽ひ、泣きながら
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――あんまりだわ、あんまりだわ……。そんな……そんな法つてないわ……。なんとか、前に云つてくれたつていゝ筈だわ。それならそれで、ちやんと、覚悟するのに……。いくらだつて、諦めやうがあるわ。これぢや、どうしたつて、諦められ
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