わが演劇文化の水準
岸田國士

     アカデミイなき悲哀

 現代日本の各種文化部門を通じて、最も混沌たる状態を示してゐるのは、人々によつて多少見るところも違ふであらうが、恐らく、明治維新の一転機にも拘らず、かの封建的伝統を最も執拗に、かつ濃厚に継承し来たつて、これに代るべき新時代の要求を未だ明確に反映し得ない、ある若干の部門に限られてゐるやうである。
 これは、要するに、理論と実践の二途について――例へば政治の如き――一様の批判は加へられぬものもあるに相違ないが、少くとも精神文化の方面に於て近代国家の面目としても、甚だ外聞を憚るやうな社会的現象が、何等指導階級の注意をすら惹かずに存在し続けてゐることを、識者は既に幾度も叫んでゐるのである。
 私は固よりさういふ立場から、権威ある言説をなす資格などありやうはないのであるが、需められるままに、自分の専門たる演劇の領域に於いて、現在、わが国の劇場文化が、如何に低劣卑俗を極め、これに反撥する運動の精神が、遂に今日まで有力な民衆の支持を受け得ないでゐる事実について語らうと思ふのである。
 要するにかういふ結果は、単純な原因に基くものではない
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