は、舞台用の通常服を作つてやる。
 それを、舞台以外で着ることを禁じてゐる劇場もあるが、おほかた、大目に見てゐるらしい。
 出し物によつて、特別に服を新調するやうな場合――それは現代服でも作者の指定がかうと限られてゐるやうな場合――さういふ場合、若い役者は、なかなか考へてゐる。早速古着屋をあさつて、それに適つた品を見つけ出し、その代り、自分の好みに応じた服を新調して、劇場に書附けを差出す。
 服屋の方でも、それを心得てゐて、古着探しまでやつて呉れるのがある。

 外套だけ劇場持ちといふやうな制度もある。
 年に三万法の収入がある女優、これは勿論舞台衣裳自弁であるが、この三万法のうち二万五千法は衣裳にかけてしまふのが常である。
 尤もこれは最近の風習で、前世紀末葉までは、例の浪漫劇全勢の時代ですら、衣裳の華やかさを誇つた時代ですら、そんな贅沢な真似はしなかつたやうである。
 その頃は、舞台で着る衣裳は、舞台の上で引立ちさへすれば、地質などはどうでもよかつた。ガラスがダイヤモンドの役をつとめた。
 処が近頃では、舞台の衣裳は、そのまゝ社交場裡の盛装である。流行の先駆たる誇を満たさなければな
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