メディイ・フランセエズでは、専属俳優の下着類は一切、劇場の方で洗濯してやることになつてゐる。その下着からが、既に劇場で支給するといふ規定なのである。
 やつぱり、下着などゝいふものは、はうつて置くと、どんな汚れたものを着てゐるかも知れないといふ、つまり、老婆心、悪く云へば、俳優に対する不信任から来てゐることは勿論である。女優などになると、肌着、腰巻、靴下…………かもじ…………まで洗つてやらなければならない。

 その他の劇場の中で、洗濯代劇場持ちといふのは数へるほどしかない。
 バレエ・ロワイヤル座が、その一つ。
 こゝでは、劇場主が、下着の清潔といふことをやかましくいふ。俳優は競つて汚れものを事務所に持ち込んで来る。
 潔癖にして寛大なる劇場主M氏は、或日――それも始めて――洗濯物差出日に、事務所へ顔を出した。
『一体、奴さんたち、どれくらゐ汚れるまで着てゐるか知ら……』
 かう思ひながら、包みの一つを、成るべくそれに触れる指の面積を少くしながら開けて見た。中から、子供の涎掛け、台所用の前掛け、つぎ[#「つぎ」に傍点]だらけの敷布などが飛び出した。

 大概の劇場で、給料の少い俳優に
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