あることだ。学問の方のことにしてみても、上《うは》つ面《つら》だけわかれば、それで満足するといふ風がある。
葉絵子 さうおつしやると、あの方の好いところは、丸でないわけね。
父 ないこともない。第一に、お前のために、あんなに時間を割いてくれるところなんか、ほかの男には、ちよつと出来ない芸当だ。お前に対して、あんなに好意を寄せてゐることは、なんと云つても、あの男の一番感心なところさ。
葉絵子 お父さま、それ皮肉でせう。
父 いや、決して皮肉ぢやない。これは、お前よりも、わしが有りがたく思つてゐることだ。しかし、有りがた迷惑といふこともあるからな。
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二
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葉絵子は、父の書斎を辞して、自分の居間に帰ると、そこには、母が待つてゐました。
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母 お父さまの御用はすんだのかい。
葉絵子 えゝ。
母 どんな御用だつたの?
葉絵子 なんでもないの。学期試験の準備はどうだつて、お訊きになつたのよ。
母 ほんとに、さう云へば、遊ぶのはもういゝ加減にして、そろ
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