れに乗じやうと待ちかまへてゐる。こんな風に云ふと、お前にはわからんかも知れんが、お前があんまり馴れ馴れしくすると、それをいゝことにして、向うでもだんだん馴れ馴れしくして来る。そのうちに、あの男の云ふことを、お前はいやだと云へなくなるんだ。いゝかい。そこが大事なとこだ。相手さへ立派な男ならそれやかまはんさ。ところが、あの大隈といふ男は、お父さんの眼鏡ちがひで、性質と云ひ、才能といひ、どうも感服できないところがある。今更、来るなとも云へんが、お前にとつては一番危険な人物だ。お世辞もいゝし、風采も学生らしく小ざつぱりしてゐるし、麻雀やトランプは上手だし、うつかりすると、お前なんか、それだけで、好きになりさうな男だ。ところが、あの男の欠点は、第一に見栄坊《みえばう》といふことだ。することに裏表がある。知らないことでも、知つてゐるやうに見せかける風がある。これは、ある程度まで人に取り入つて、一時は重宝がられることもあるが、決して大を成すわけに行かない。第二には、極端な利己主義者といふことだ。学者などにはよくあるやつだが、これも人間として頼母《たのも》しくない。第三に、物事を深く究めないといふ癖の
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