んか生めやしませんわ。
父  葉絵子は、お嫁に行くときまつてるのかい。
葉絵子  きまつてやしませんけれど……。
父  お嫁に行くとすれば、どういふ人のところへ行きたい?
葉絵子  そんなこと、まだ考へてませんわ。
父  今、考へてごらん。
葉絵子  急に考ろつておつしやつたつて、無理ですわ。
父  無理なもんか。そんなことは、もうそろそろ考へておかなけれやいかん。そんならわしから訊くが、家へ遊びに来る若い男たちのうちで、この人ならと思ふ人があるか。
葉絵子  こつちでばかりさう思つても、しやうがありませんわ。
父  なるほど。では、向うでもさう思つてさうな男がゐるかい?
葉絵子  そんなこと、どうだか知りませんわ。
父  ほんとだね。
葉絵子  ほんとですわ。
父  よし。そんなら、今のうちに云つといてやるが、近頃一番度々やつて来る大隈《おほくま》といふ男ね。
葉絵子  欽《きん》一さんのことでせう。
父  あの男は、もうぢきお前に結婚を申込むよ。
葉絵子  ……。
父  どういふ方法で申込むか知らんが、兎に角、今、お前の心を試してゐる最中だ。こつちが少しでも油断をみせたら、すぐにそ
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