そろ机にお向ひなさいよ。あゝして三日にあげず麻雀やブリツヂばかりしてるのが能ぢやありませんよ。大隈さんにもさう云つて少し遊びにいらつしやるのを控へていただかなくつちや……。
葉絵子  だつて、欽一さんにだけそんなことおつしやつたつて駄目よ。
母  だからさ、あの人さへ来なけれや、ほかの人達だつて遠慮をするからね。
葉絵子  どうだかわからないわ。関《せき》さんなんか、何時でも、大隈来てませんかつて、平気ではひつてらつしやるわ。
母  あんたはね、大隈さん大隈さんつていふけれど、あの方は、あんたのところへ遊びにいらつしやるんぢやないんだよ。
葉絵子  あたしのところでなけれや、誰のとこへなの? 母《かあ》さまのとこ?
母  馬鹿お云ひ。あれはね、ほんとは、お父さまとお話がしたくつていらつしやるんだよ。お父さまは近頃お忙しいもんだから、めつたにお会ひにならないけれど、学問上のことで、いろいろお訊きになりたいこともあるだらうし、お父さまのやうなその道の権威と、できるだけ接近しておかうつていふ野心もおありだらうし、それや、そんなことは、今時の若い人は、みんな考へてるんだからね。
葉絵子  あら
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