1−2−22]、模範青年の名に於て、青年らしからざる「分別」と「迎合」を臭はせてゐるあの型は、極端なものになると、もはや鼻もちならぬ程度に達してゐます。
 要するに、時代の空気を表面的に身に纏つた、一時の装ひにすぎぬ型といふものはその気になりさへすれば、誰にでもすぐにはまり得るものです。しかし、さういふ型は、また誰が見ても軽薄な一面を暴露してゐるもので、それはそれとして時代の奇怪な風俗であるばかりでなく、一方、さういふものが跋扈するために、その反動とも云ふべき皮肉と自嘲とが、どうかすると見栄の如くに対立するやうな現象もないとは云へません。
 今日、国を挙げて必勝の信念に燃え、臣民ことごとく戦場に在る覚悟をもつて一日一日を送つてゐるつもりでありますけれども、前線の消息遥かにして、敵はまだ遠いといふやうな印象が、やゝもすれば、われわれの心に瞬間の緩みを生じ、もはや「勝つにきまつてゐる」と高を括るか、或は、「戦さに勝ちさへすればいゝ」と、それはその通りにしても、それから先のことをつい考へようとしない、いはゞ安易な空気が何処かに頭を擡げて来たやうな気がします。
 国民士気の昂揚、生産力の拡充、
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