。かゝる典型への成長を予想させる青年男女の、未完成ながら溌剌とした、一方われわれの祖先につながるものを豊かにもちつゝ、なほかつ、未来の知られざる世界へ伸びる可能性を十分に発揮した、一つの若々しい精神のすがたを想像することは、私にとつてはこの上もなく愉快なことです。
 しかしながら、かういふ「精神のすがた」は、如何なる文学的表現も限りある想像力をもつてしては容易に描き出せるものではありません。具体的には、恐らく、「理想的何々」といふ風な、ある限られた条件のなかで、特殊な成育を遂げつゝある一つの型を常識として想ひ浮べることが許されるでありませう。例へば「理想的青年教師」とか、「理想的農村青年」とかいふやうなものです。この場合、私は、「理想的」といふ言葉が、往々にして、類型化された卑俗な調子に引きさげられてゐるのをみます。それは、一見非のうちどころのない、それぞれの立場では模範となるやうな青年を指してゐるにもせよ、そこには、常に功利的な、一種の「成績」といふやうなものが重大視され、日本の青年としての気品や「志」といふやうなものが問題にされることは至つて少いのであります。殊に屡※[#二の字点、
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