人口の増強、貯蓄の奨励といふ風な、いはゆる重点的な運動の掛け声は、その根柢を貫く日本文化の問題を、常に表面には浮び出させない結果、国民の錬成を目的とする各種の行事を通じても、日本人の資質を綜合的に高め、その能力を指導民族の矜りとして権威づける配慮があまり払はれてゐないやうに思はれます。
 私が、みづから足らざるところ多きを恥ぢながら、敢て、かくの如き一書を「若き人々」に捧げようとする意図は、決して、今日の青年に慊らぬといふやうな不遜から出たものではありませぬ。寧ろ、われわれの世代が成すべくして果し得なかつた幾多の事業を通じ、是非これだけは次代の手によつて達成されなければならぬと思はれる一事、すなはち、明日の日本人の形成を目指して、先づ、新しい青年の典型を創造する基本となるべき精神を、主として自己を省ることによつて、なるべく率直に述べようと試みたものであります。
 固より、かゝる試みは多くの人々によつてなされなければなりません。私の未熟なしかも匆卒の間になされた考察が、せめてその機運を少しでも早めることになれば幸ひであるばかりでなく、男女青年諸君の、身自らをもつてする錬磨と反省とに役立ち
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