ゝに、今日までの「文化」の推移、発展のすがたがあります。
「高い文化」を誇つてゐた国の、「文化の危機」がどこにあつたかといふと、その「文化」を脅やかす他の力ではなくて、寧ろ、その高いと移する「文化」自体のうちにあつたことが今や明らかになりました。即ち「高い」といふ価値標準のうちに、「健康」といふ条件がまつたく欠けてゐた事実を暴露したのであります。
 そこで、「高い文化」は不健康を伴ふといふ逆説のやうなものまで、一部の人々の間では信じられるやうになり、事実はそれほどではありませんが、その声だけは相当の力をもつて巷間に流れてゐます。尤も、西洋近代文化の一般から推して、既に彼地に於ても「文化」は進むに従つて頽廃の一路を辿るものと決めてゐる学者や思想家もあつたくらゐで、それはつまり、「文化」と「民族」、或は「国民」との一体関係に想ひ到らなかつた欧米近代思潮の偏向によるのであります。
 更に、日本の文化は、現代の表面的混乱にも拘らず、民族の輝かしい歴史と、国土の豊かな伝統とによつて、その特質は今なほ溌剌たる生気を保ち、時に応じ、国民決死の相貌となつて、強敵を粉砕する力を示すのでありますが、しかし
前へ 次へ
全11ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング