『十二月』
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)抒情味《リリシズム》
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 これは本誌(前同)四月号の頁をあらまし占領した小山祐士君の力作だ。前に、川口、伊賀山両君の大作といひ、当今、百枚に余る作品を自由に発表し得る幸運は、劇作同人諸君に限り与へられてゐるの観がある。
 しかも、『十二月』は、なかなかの佳作である。粗末な力作は、愚劣な小品より罪が重いのであるが、見事な大作は、片々たる傑作よりも声を大にして褒めたくなるのが人情だ。その人情を割引して、僕は、小山君の作に対はう。
 戯曲の生命を抒情味《リリシズム》にのみ托する過ちを誡めたのは、ジャック・コポオであるが、これまでの小山君は、正しくこの過ちを犯してゐるやうだ。しかも、そのリリシズムには、一抹の生活的乳臭を漂はせ、これがいかんと、僕は危ぶんでゐたのだが、今度といふ今度、小山君は、俄然、その持ち前のリリシズムを「戯曲的」に、主題を、「やや象徴的」に処理しはじめた。言ひ換へれば、環境の現実的把握によつて、雰囲気の中心を形作り、生彩に富んだ観察を織込んで、人物の性格的発展にほぼ成功した結果、作品
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