悪い意味にも、――いや、この言葉は、それほど悪い意味に使はれてゐない。寧ろ、「ハイカラ」を軽蔑する場合に、「蛮カラ」がいかに昂然とその「美風」を誇つてゐることであらう。素朴、恬淡、磊落、質実、剛健、超俗……等々の美点にさへ似たものであるとされてゐる。
それはそれでいい。「蛮カラ」とは、何れにしても、細節に拘泥せず、我武者羅であり、悪くいへば「野暮」であり「殺風景」であるが、時として、それを知りながら、わざとさうであることを努める。弊衣破帽、辺幅を飾らざる東洋豪傑趣味である。
「ハイカラ」なるが故に、華美を好むとはいへない。まして、贅沢は「ハイカラ」の別名ではない。否、寧ろ、かのケバケバしいブウルジユワ成金趣味は、凡て「ハイカラ」とは縁の遠いものである。
「ハイカラ」に似て、実は全く異つたものに、かの「粋」がある。これは、「ハイカラ」の幾分超国境的なるに対し、純粋に民族的なるところ、局地的なるところ、一つの著しい特長であるが、従つて、一方の進歩的、個性的なるに対し、これは保守的で、しかも常に伝統的である。故に言葉は変であるが、「日本風なハイカラ」と「西洋風な粋」があり得ることを知らなけ
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