、その「ハイカラ」は、「高いカラア」をつけることばかりを意味しないのはもちろんであつて、好んで「高いカラア」をつけるやうな男は、好んで派手なネクタイを結び、好んで素透しの眼鏡をかけ、好んでまた、先のとがつた靴を穿いたに違ひない。かくの如き男はまた、好んで英語を操り、好んで淑女たちの御機嫌をとつたに違ひない。
 ここに於いて、「ハイカラ」なる言葉は、単に服装の上ばかりでなく、その態度の上に、その趣味の上に、そのテンペラメントの上に加へられる言葉となり、しかも、幾分、軽蔑、揶揄の意味を含む言葉とさへなつたやうである。なんとなれば、この「ハイカラ」なる言葉は、少くとも、自ら「ハイカラ」をもつて任ずる人間が口にする言葉ではないからである。
 また、この言葉は、単に男性のみに限らず、一方、女性の上にも加へられる言葉となつた。「ハイカラな女」は、ただ、その頭髪を、いはゆる「ハイカラ」に結ふばかりでなく、これまた眼鏡をかけ、時計を持ち、オペラバツグを提げ……などするを常とした。殊に男性の前では、黙つてうつむいてばかりゐることなく、一寸首をかしげて、「まあ、素敵!」といふやうなことをいつて見なければな
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