「文壇波動調」欄記事
(その三)
岸田國士

 文芸時代から創作をとの命を受けたこと、五六回、其の都度何かしら身辺に事故がおこつたりさもなければ時日が足らなかつたりして、とうとう一度も責を果すことが出来なかつた。かうなると同人中に名を連ねてゐることが甚だ不体裁であるやうに思はれる。がしかし今度こそは――同人を辞退するやうとの勧告を受ける前に――ほかはさておいて何か書くつもりでゐます。(岸田)
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 此の欄で自分のことばかりいつては叱られるかも知れないが――
 去年は丸半年を病床で過した。今迄は、病気で寝てゐるといふことが何もしなくてもいいことでありしたがつて自分の空想癖を満足させるのに最も都合のよいことであつたのだが、今度は、どういふものだか絶えず脅迫観念におそはれて云はば、病気を――少くとも病気で寝てゐる間を――利用することが全く出来なかつた。その上神経が恐ろしく疲れてゐる。頭がからつぽだといふのはかういふ時をいふのだらう。何もいふことがない、それはくだらないことしかいへないよりも更にもどかしい。
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 年末年始の日記を書けと云はれたが、これも
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