「文化勲章」制定に就て
岸田國士
文化勲章の制定が公布せられたことは、私個人としていろいろ考へさせられる問題があると同時に、国民として、まことに慶賀すべきことだと思ふ。かねてから、民間、殊に文壇ヂヤアナリズムの上で、さういふ制度に関する論議があり、それについて私も若干意見を述べたこともあるが、いよいよそれが実現して見ると、やはり国家もさういふ処まで来てゐたのだと感慨うたゝ切なるものがある。
形式上のことはよくわからぬが、これは政府の仕事だとか、官僚の思ひつきだとか、強ひてさういふ風に解さない方がいゝ。林首相の謹話といふのを読むと、事理すこぶる明白で、かういふ制度が、これまで日本になかつたことをむしろ不思議に思ふくらゐであるが、たゞ、この種の表彰が、今日の政府の手で如何に正しく、公平に、且つ進歩的な意義をもつて行はれるかといふ疑問を先づ国民は抱くであらう。
「文化」といふ言葉自身に対する政治家乃至役人の観念を先づ質したいといふのが卒直なわれわれの感想であるが、さういふことは、国家が折角「文化」といふものに対して示さうとするインテレストを軽視することにはならないと思ふ。
特に「文化
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