の発達に関し勲績卓絶なるもの」に与ふる勲章といふ例は、恐らく、世界に類例がないのではないかと、私は今ふと考へた。日本には、金鵄勲章といふ特別な武功章があるから、これに対して文功章が設けられる精神もわかりはするが、一般の勲章(旭日章、瑞宝章等)は、これで、科学者、芸術家には縁のないものとなるやうなことはないか。官民の国家待遇上の差別が、若しこの結果露骨になるとしたら、そのへんの考慮も当局としては是非払はねばなるまい。
 最後に、科学者は別として、芸術家殊に文学者などのなかには、一種の「伝統的心境」から叙勲を辞退することをもつて礼節と考へるものがゐるかもしれないが、さういふ個人主義は、国家的見地からは問題とするに足りない。寧ろかゝる風潮を生む真の原因は、官民の間を流れる封建的感情にあるのである。
 文化の装飾的意義が存在する期間においては、勲章も、またやむを得ぬ一個の「ビブロ」である。



底本:「岸田國士全集23」岩波書店
   1990(平成2)年12月7日発行
底本の親本:「報知新聞」
   1937(昭和12)年2月12日
初出:「報知新聞」
   1937(昭和12)年2月12
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