「劇作」に告ぐ
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)うやむや[#「うやむや」に傍点]
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ずいぶん旧いことだが、「劇作」が創刊される頃はたしかに新劇の世界に一つの機運がもり上つてゐた。それは、大正初年の、いはゆる戯曲の開花期に相応するものである。
私はこの二つの時期をそれぞれに、新劇に於ける飛躍時代と呼びたいのであるが、その意味は、日本演劇の近代化が、戯曲文学を通じて、これほどはつきり、一つの足跡を残した時代はないと思ふからである。
大正初年は、舞台的にも、様々な集団による様々な運動が芽をふき、そこから、極めて多彩な作家の一群を生みだした。
「劇作」が創刊された昭和七年前後は、新劇団の乱立などはなく、むしろ、軌道に乗つた二、三の新劇団体が、その旗印を高々と掲げて進むといふ状態であつた。
が、私が新なこの二つの新劇時代をくらべて興味を感じるのは、戯曲文学のうへで、明らかに、前者と後者との間に、先駆者とその完成者といふ関係がみられ、前者が試みたものを、後者はたしかにマスターした。しかし前者が新調した
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