路をたどらねばならぬ。結局根本問題に觸れてをらぬのは、大なる缺陷である。研究はよろしくこの本壘に向つて突進せねばならぬ。電氣を談ずる人が陰陽電氣の本質を辨へざることは古語の論語讀みの論語知らずの如く、そぞろにファウストが慨嘆して(ファウスト悲壯劇第一部夜の段)
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その秘密が分つたら、辛酸の汗を流して
うぬが知らぬ事を人にいはいで濟まうと思つたのだ
[#ここで字下げ終わり]
 と獨り言を吐いた感觸を想はしむるのである。
 こゝに僅かだから書いたことは、近ごろの物理學の進路を、汽車の窓から覗くやうなもので、見ても何だか判然しないことが多い。讀者はこれを諒とせられんことを望む。



底本:「隨筆」改造社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「大阪朝日新聞」大阪朝日新聞社
   1932(昭和7)年1月4日
※底本では表題の後に「(昭和七年(1932)一月「大阪毎新聞」所載)」とありましたが、正しいと思われる初出を記載し、当該箇所は入力しませんでした。
※疑わしい箇所の訂正に際しては、初出を参照しました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(
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