瑞賢の安治川の河身改修、安井道頓の運河開鑿等、工學上の業績も輕視してはならぬ。また緒方洪庵が教育家として辣腕を揮ひ、福澤諭吉、橋本佐内らを出したことは、周知のことである。要するに大阪市は學者の志望を達成せしむる、特殊の魅力に横溢してゐた。學者もまた經史の註釋に沒頭するやうな、腐れ儒者のなすことに甘んぜず、獨創的見地から活きた學問を啓發するに心血を注いでゐた。これ恐らく大阪の土地柄から來た反映であらう。
大阪が日本の金穴であることは明白であるが、その蓄積する基礎は、確固として動かすべからざるものか、多少の疑ひを存した。天王寺の多聞天が、福徳を全市に蒔き散らしてゐると信ずる人もあらうが、これは單に迷想に過ぎない。その安置された殿堂は、一度地震で倒壞したではないか。地盤が確かりしてゐなければ、どんな事業でもぐらつき出す。現代の如き、轉變極まりなき時世には、基礎から固めて進まねば駄目である。先年最高學府を市に設くるに當り、市民が一齊に共鳴して、商工業の基礎となるべき科學と、その應用である工學を隆盛ならしむる趣旨を表明されたのは、大阪市の將來に大なる確實性を與へた。在來の如き模倣的投機的精神に
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