から、安治川へ下り、天保山、築港をみて、木津川口から遡つて、土佐堀邊まで來ると、その概況を知ることは可能である。左右に大厦高樓を眺めてボートを走らすかと思へば、傍に白波を蹴立てゝ通るランチがある。また荷物を滿載して悠々と上下する團平船がある。あはや衝突せんとして、急に舵を操り直し、舷々相摩して過ぎ去る船もある。かく數多の船が輻輳する模樣は、恰も雜踏した群集の間を往來するが如く、安治川や木津川においては頗る混亂した行動をとらねばならない。しかして沿岸には倉庫が軒を並べ、市場、諸工場などあつて、まゝ原始的住家と思はるゝぼろ家もある。そこには洗濯した襤褸を、臆面なく風にぴらつかせてある。實際目前にちらつく千差萬別の景色は、應接に遑がない。その間にちよつと注目すべき所は、荷物の積み下しである。團平船の集團は、潮汐の工合で、互に接觸して毀損する虞があるから、自動車の古いタイヤを幾つとなく、舷側にぶら下げて、接觸を緩和してゐる。この廢物利用の思ひつきは、他所では見當らないが、大阪の船頭さんは、頓智をきかせてゐるところに、觀察の價値がある。築港には一萬噸餘りの船はまだ見えない。運河と港とは互ひに聯絡
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