宇宙は單純な法則で支配されている。万有引力は距離の2乘に反比例し相互の質量の積に比例する。電氣も磁氣もこれに類似している。しかるに輻射はこれに反し 恐らく複雜な 一言にして明らかにし難き法則により支配されている。單純を基としている自然が 輻射に限り プランクの式の如き規程を設けたとは いかにも不思議である。將來この法則は單純化するのであろう。自分はまだ承認し得ない」と その疑惑を披瀝した。
 續いてアーヘンにスタルク(スタルク效果の發見者)を訪ね その輻射則に關する意見を叩けば ラザフオードと表裏し「プランクの法則にはその恒數 h あり 光の速度あり ボルツマン恒數ありで 獨り万有引力恒數が缺けているのは遺憾である。このくらい面白い法則は無い」と賞讚した。兩學者はまだ h の須要性を理解していなかつたからこんな氣焔を吐いたと思う。今は敢て是非を議する要はない。
 先生は寫眞に示す如く 細面の人で鼻は高く 額に碧筋が現われていた。眼は鋭く 話ははつきりして 講釋は音吐晴朗 語調明確 別に氣取つた風采なく 抑揚頓挫なども稀で 偏に學生の理解を希うていた。
 自分が初めて師事したのは 189
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