たK君が、私一人激しく責め立てられるのを見兼ねたものか、
「僕がこんな所へ口を出すのは、変だけれど、もう、そんな話はよした方がいゝね。僕はK君の心持は解つてる積りだが、もし忠告する事があるとしても、もつとプライヴェートにする方がいゝと思ふ。――こんな所でしては、たゞK君を悪い気持にさせるだけだから。」と口を出した。
此の常識的な言葉には、誰も彼も推服せざるを得なかつた。Aも、
「僕ももと/\こんな事を云ふ積りぢやなかつたんだけれど、つい時の調子でこんな事になつて了つたんだ。Kにはほんとに失敬した。」
と云つて収まつて了つた。
そこで又元通り、他の雑談に移らうとしたが、一旦白けて了つた座は、もう元通りにはならなかつた。時間も既に十二時に近くなつてゐた。それで誰云ふとなく散会する事になつて了つた。戸外《そと》には正月の寒い風が吹いてゐて、暗く空が蔽《おほ》ひかぶさつてゐるやうな夜だつた。
私の胸中は、まだ憤懣《ふんまん》に充《み》ちてゐた。私はそれを訴へたい為に、広小路の方まで歩くと云ふK君と暫《しば》らく一緒に歩くことにした。するとAとEも、そつちの方が道順だつたので、一緒に加は
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